ログイン「え?」
ゼノヴィアスの顔が、みるみる青ざめていく。
「こ、この前、愛を確かめ合ったではないか!」
必死の形相で訴える。あの白い空間での熱いキスを思い出しているのだろう。
「へ? 何のことですか?」
シャーロットは首を傾げ、きょとんとした顔を作る。
「夢でも見てたんじゃないんですか?」
ツンと澄まして、またウーロン茶のジョッキを傾ける。
でも、よく見ればその耳は真っ赤に染まっているのだが、ゼノヴィアスは気づかない。「夢?! ほ、ほんとに夢?! そ、そんなぁ……」
ゼノヴィアスの魂が、口から抜けていきそうになる。
「くぅぅぅ……」
失意と悔しさと、そして燃え上がる闘志。
すべての感情を飲み込むように、新しいピッチャーをガッと掴む。ゴクゴクゴクゴク!
今度は怒りと悲しみを紛らわすような、自暴自棄な飲み方。
そして――――。
ガクッ。
空になったピッチャーをテーブルに置くと、そのままうなだれて動かなくなった。
肩が荒い息に震えている。「おぉ、いい飲みっぷりだけど……」
シアンは楽しそうに自分もピッチャーを空ける。
頬がほんのりと赤いが、まだまだ余裕の表情。「僕の勝ちね?」
そう宣言しながら、次のピッチャーに手を伸ばす。
勝者の余裕が、全身から漂っている。「あぁ……ゼノさん……」
シャーロットはそっと、うなだれるゼノヴィアスの広い背中に手を置いた。
優しく、ゆっくりと円を描くように撫でる。
(ごめんなさいね、結婚よりも今はカフェなの……)
背中を撫でる手には、確かな愛情が込められていた。
◇「ゼ「え?」 ゼノヴィアスの顔が、みるみる青ざめていく。「こ、この前、愛を確かめ合ったではないか!」 必死の形相で訴える。あの白い空間での熱いキスを思い出しているのだろう。「へ? 何のことですか?」 シャーロットは首を傾げ、きょとんとした顔を作る。「夢でも見てたんじゃないんですか?」 ツンと澄まして、またウーロン茶のジョッキを傾ける。 でも、よく見ればその耳は真っ赤に染まっているのだが、ゼノヴィアスは気づかない。「夢?! ほ、ほんとに夢?! そ、そんなぁ……」 ゼノヴィアスの魂が、口から抜けていきそうになる。「くぅぅぅ……」 失意と悔しさと、そして燃え上がる闘志。 すべての感情を飲み込むように、新しいピッチャーをガッと掴む。 ゴクゴクゴクゴク! 今度は怒りと悲しみを紛らわすような、自暴自棄な飲み方。 そして――――。 ガクッ。 空になったピッチャーをテーブルに置くと、そのままうなだれて動かなくなった。 肩が荒い息に震えている。「おぉ、いい飲みっぷりだけど……」 シアンは楽しそうに自分もピッチャーを空ける。 頬がほんのりと赤いが、まだまだ余裕の表情。「僕の勝ちね?」 そう宣言しながら、次のピッチャーに手を伸ばす。 勝者の余裕が、全身から漂っている。「あぁ……ゼノさん……」 シャーロットはそっと、うなだれるゼノヴィアスの広い背中に手を置いた。 優しく、ゆっくりと円を描くように撫でる。(ごめんなさいね、結婚よりも今はカフェなの……) 背中を撫でる手には、確かな愛情が込められていた。 ◇「ゼ
「何よ、やるの……?」 シアンは極上カルビをもぐもぐと味わいながら、挑発的な笑みを浮かべ――――。 ブワッ!とシルバーのボディースーツに包まれた体から、鮮烈な青いオーラを放つ。 上位神の持つ、圧倒的な力。 魔王対、大天使――。 二つのオーラがぶつかり合い、部屋の空気がビリビリと振動する。 テーブルの上の皿がカタカタと踊り始めた。「あわわわ……」「ひぃぃぃ……」 誠もレヴィアも自分の皿とジョッキを持ち上げて退避する。 二人の気迫が最高潮に達した瞬間――――。「やめなさい!」 美奈の鋭い一喝と同時に、 ピシャーン!! 天井から黄金色の稲妻が二本、まっすぐに落ちてきた。「ごはぁ……」「ふへぇ……」 魔王も大天使も、等しく感電の洗礼を受ける。 髪の毛が逆立ち、全身から煙を吐きながら、二人同時に椅子へとへたり込んだ。「全く! 子供じゃないんだから!」 美奈は呆れたようにため息をつき、手にしたジョッキをグイッと傾ける。 琥珀色の液体が、喉を潤していく。「あぁっ! ゼノさぁん……大丈夫?」 シャーロットは慌てて、煤だらけになったゼノヴィアスの顔を覗き込んだ。 そっと手に取ったおしぼりで、彼の頬についた煤を優しく拭き取っていく。 その手つきには隠し切れない愛情がこもっている。「う、うむ……大丈夫だ……」 ゼノヴィアスの頬が、ほんのりと赤く染まった。「喧嘩するなら、飲み比べでもしてなさい!」 美奈がふんっと鼻を鳴らし、ジト目で二人を睨みつける。「の、飲み比べ!?」 ゼノヴィアスがゴホゴホと煙を吐きながら、首筋を押さえ、身を
「い、いいんですか?」 シャーロットの声が震えた。 瞳から涙が溢れ出す。「よ、良かったぁ……」 全身から力が抜ける。 長い、長い戦いが終わったのだ――――。「その代わり……」 美奈の琥珀色の瞳が、まるで魂を見透かすようにシャーロットを貫く。「自分の地球は、自分で管理しな!」「へっ!? か、管理ですか!?」 予想外の条件に、シャーロットは目を丸くした。 地球を管理? システムも分からない自分に、そんな大それたことが――。「そ、そんな……私にできるわけが……」「『できない』じゃ済まないわよ」 美奈はダン!とジョッキをテーブルにたたきつける。「復活させるのはいいけど、誰かが管理しなければならないのよ? 地球は放っておけば回るようなもんじゃないわ」 確かにそうだ。|万界管制局《セントラル》の仕事の様子を見て来た自分にはその大切さが良くわかっている。「わ、分かりました」 シャーロットは震える声で答えた。「仕方ないですよね……やるしかない……」 ここで断る選択肢など、あるはずもない。 たとえ無理難題でも、受け入れるしかない。「分かんないことはレヴィアに聞いて」「へ? わ、我ですか!?」「文句……あるの?」 美奈は琥珀色の光をギラリと光らせる。「そ、そんなことないです! やらせていただきます!」 レヴィアはガタン!と立ち上がると、冷や汗を流しながら直立不動で敬礼をした。「うむ、よろしい。それでも……一人じゃ大変よね?」 視線が、ゼノヴィアスへと移る。「魔王も協力してやって!」
「いやぁ、悪い悪い、東京の|恵比寿《えびす》だったか……」 レヴィアは小さな足で、商店街の小径をタタタと小走りに進んでいく。「なんで大阪の新世界なんて行っちゃったんですか!?」 シャーロットは白いワンピースの裾を押さえながら、涙目で後を追った。 せっかくの晴れの日なのに、汗だくになってしまっている。「あそこは|恵美須《えびす》町って言うんじゃ! 紛らわしいったらありゃしない!」「普通、間違えませんって! みんな待ってますよぉ……」 シャーロットの声が震える。「せっかくのお祝いなのに……」 【|黒曜の幻影《ファントム》】を捕獲した功績を称える祝賀会。 まさか主賓の自分が遅刻するなんて――――。「大丈夫じゃ、焼肉は逃げんよ!」「そういう問題じゃないんです! もう……」 角を曲がると、目指す店が見えてきた。 こじゃれた木造二階建ての焼肉屋。 黒板にはチョークで丁寧に描かれた、美味しそうなメニューの数々。 炭火の香ばしい匂いが、通りまで漂ってくる。 二人は肩で息をしながら店に飛び込んだ。 古い木の階段が、ギシギシと音を立てる。 炭火の香りと笑い声が、二階から漏れ聞こえてくる。 シャーロットは胸の高鳴りを抑えながら、個室の扉に手をかけた。 その瞬間――――。「無礼者! お主、何をしてくれる!!」 雷のような怒号が、扉の向こうから轟いた。「……へ?」 シャーロットの全身が、稲妻に打たれたように硬直する。 この声は――。 この懐かしい響きは――。(まさか……まさか……!) 震える手で、そっと扉を開けた。 心臓が早鐘を打つ。手のひら
祭りの喧騒も、人々の動きも、風さえも。 すべてが静止した世界で、女性だけが必死にもがいている。「くそっ! |万界管制局《セントラル》か!」 女性は拘束されたままふわりと宙に浮かび上がり、光の拘束を振り払おうと、激しく身をよじる。 この凍りついた世界で、動けるというのは――。 女性が管理者権限を持っている証しだった。「させるかぁ!」 誠の咆哮が、静寂を破った。 あちこちの宙が裂け、その向こうから|万界管制局《セントラル》の精鋭たちが、まるで忍者のように現れる。 手にしているのは、虹色に輝く特殊な装置。 それらが一斉に起動し、空間に幾何学的な光の紋様を描き出す。 ヴゥゥゥン……。 光でできた巨人の手が、アルゴを掴んだかのように見えた。 刹那――――。 ぐはぁ! 彼女の体が、凄まじい勢いで地面へと叩きつけられる。 容赦ない衝撃が、広場に響いた。「今だ! 確保! 確保!」 号令と共に、特殊な拘束具を手にスタッフたちが四方から飛びかかる。 一人がアルゴの腕を押さえ「確保ぉ!」、 一人が脚を封じ「確保ぉ!」、 一人が胴体に覆いかぶさる「確保ぉ! 確保ぉ!」。 まるで統制の取れた狩人たちが、獰猛な獣を押さえ込むかのような光景。「ぐぁぁぁぁ! 離せ! 離せぇぇ!」 アルゴは獣のような叫び声を上げた。 次の瞬間、彼女の体から黒い霧が噴出する。「ぐはっ! 吸うな!!」「くぅぅぅ……」 アルゴの最後の抵抗であった。 しかし――。「無駄だ!」 誠が新たな拘束装置を投入する。 それは生きているかのように、グルグルとアルゴの体に巻き付いていく。 腕に、脚に、胴体に――銀色の帯が、幾重にも幾重にも。 そして――――、まるでミイラ状になり、
『いやまぁ、我々にはこんな作戦、思いつかないからねぇ……』 誠は苦笑いを浮かべた。『上手くいくといいんだが……』「ぜーーったい、上手くいきますって!」 シャーロットは力強く断言する。「誠さんだって、トマトのない世界でしばらく暮らしたら、禁断症状出ると思いますよ?」『あー、まぁ……食べたくはなるだろうなぁ……』「ほらほら! ふふっ、【|紅蜘蛛の巣《トマト・トラップ》】大作戦、開始ですよ!」『オッケー! 俺たちは密かに監視してるから頑張って! グッドラック!』「ちゃんと捕まえてくださいよ! グッドラック!」 やがて、フードコートに人が集まり始めた。 家族連れ、若いカップル、老夫婦――皆、祭りの雰囲気を楽しみながら、思い思いの屋台へと向かっていく。 しかし――。「美味しいオムライスですよ~! 真っ赤なソースが美味しいですよ~!」 シャーロットがいくら声を張り上げても、人々の反応は冷たかった。 サンプルを一瞥して、顔をしかめる。 真っ赤なソースを見て、驚いて首を振る。 そして足早に通り過ぎていく。(あぁ……) シャーロットは口を尖らせた。 予想通りとはいえ、やはり寂しい。自慢の料理が避けられるのは、料理人として心が痛む。「あのぉ……」 若い男たちが恐る恐る近づいてきた。「これは何なの?」「あ、これはですね」 シャーロットはかごに山積みにしていた真っ赤なトマトを一つ取り、最高の営業スマイルを浮かべる。「この赤い野菜を煮込んだソースを使った料理なんです」「何この野菜……、甘いの?」 男の一人が顔をしかめた。「いや、甘いというよりは酸っぱい……かと」 確かに果物なら真っ赤になれば甘いものだが……。「酸っぱいの!? ちょっとグロいね」「まるで血みたい」「俺、から揚げんとこ行ってるから」「あ、俺もから揚げにしよ!」 あっさりと背を向けられる。「まぁ、そうなるわよねぇ……」 シャーロットはため息をつく。「狙い通りなんだけど、ちょっとムカつくわ」 シャーロットはキュッと口を結んだ。 ◇ 開場から二時間――――。 売り上げは、完全にゼロ。 周りの屋台が次々と料理を売りさばく中、シャーロットの屋台だけが取り残されている。(くぅぅぅ……【|黒曜の幻影《ファントム》】どころか、一人も来ない……。こ